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贅沢な暮らしばかりだと思っていたアメリカが実は貧困格差が凄いってこと。

 経済の常識的な考え方が間違っていると思うのは、「物価上昇と景気拡大を単純にイコールで結びがちである」という点です。

物価が上昇したアメリカでは、生活が貧しくなった

 たとえば2000年以降、金融危機が起こるまでのアメリカが2%のインフレ目標を達成できていたのは、決してFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策が成功していたからではありません。たしかに、アメリカの消費者物価は2009年以降、FRBの物価目標である2%を下回っている年が多いものの、2000年以降では年平均で2%の物価上昇を達成することができています。2000年の消費者物価指数を100として計算すると、2017年は実に142にまで上がってきているのです。経済学的には物価の上昇は「良」とされているので、アメリカはまさに経済の優等生であるといえるでしょう。

 しかし、私たちが見誤ってはいけないのは、このようなアメリカの物価上昇は国民生活が向上することによって達成されたわけではないということです。本当のところは、中国の急激な経済成長に伴い原油の需要が急拡大し、主として原油価格が高騰することによって起こったものなのです。その証拠として、アメリカの物価指数を項目ごとに分解して見ていくと、物価の本当の姿をとらえることができます。すなわち、2000年以降で特に物価上昇が激しかったのは、主としてガソリン、電気、食料などといった生活に欠かせないモノばかりだったのです。

 原油価格が上がると電気料金も上がるというのは当然のことですが、なぜ原油価格が上がると食料価格まで上がるのかというと、現代の農業が石油に大きく依存しているからです。たとえば、畑を耕すトラクターの燃料は軽油ですし、肥料を散布する飛行機の燃料はケロシン(灯油に近い燃料)です。野菜を栽培するビニールハウスの暖房用の燃料は、主に灯油などが使われています。原油価格が上がれば、軽油やケロシン、灯油などもそれに連動して上がり、小麦、大豆、トウモロコシなどの価格も上がっていくのです。トウモロコシや大豆などの飼料穀物の価格が上がれば、鶏、豚、牛など食肉の価格も上がっていくというわけです。

 アメリカの1世帯あたりの実質所得(中央値)が2000年より低い水準にとどまっている状況下において、ガソリン、電気、食料といったモノが2000年からどれだけ上がったのかを計算してみると、ガソリン価格は最高値の時に2.9倍、電気料金は1.7倍、食料価格は1.5倍にまで上昇しています。その一方で、自動車や衣料品などの価格はほとんど上がらずに、電化製品の価格などは日本ほどではないにせよ、大幅に下がってしまっていたのです。

 消費者物価の上昇率を大きく超えて、生活に必要不可欠なモノの価格が上昇してしまったというのは、市井の人々の生活感覚から判断すれば、正味の実質所得は公表されている実質所得よりもずっと低くなっているということを意味しています。

一時的な住宅バブルが物価上昇の痛みを覆い隠していた

 2017年末の時点でも、ガソリン価格は2.0倍、電気料金は1.7倍、食料価格は1.5倍の水準にあることを考えると、アメリカ国民の生活が日本と比べてかなり厳しい状況にあることがわかります。富裕層や裕福な中間層より下の人々にとっては、正味の実質所得は統計上の実質所得よりも1~2割くらい落ちていると考えられるのではないでしょうか。少なくとも2000年以降のインフレは、アメリカの景気拡大によるインフレというよりも、人々の生活水準を押し下げたインフレであったという要素のほうが強かったといえるでしょう。

 ただ、2000年~2007年にアメリカ国民がそれを認識できなかった背景には、住宅バブルがそれを覆い隠していたという事情があります。

 大して所得がない人々でも、住宅ローンやクレジットカードローンで借金漬けの生活を許されたのですから、たとえ低所得であっても生活が苦しいなどと感じる機会は少なかったでしょう。しかし、住宅バブルが崩壊した後は、そういった隠れていた事実が噴出し、アメリカが深刻な貧困や格差の問題に苦しむことになったのです。

 その結果として、2011年に「ウォール街を占拠せよ」をスローガンとした大規模デモが起こったのですし、2014年~2015年にかけて全米各州で最低賃金を大幅に引き上げる動きが広がっていたわけです。

 現実に、アメリカ国民の生活が極めて疲弊しているのは、アメリカ政府が2012年に公表しているように、国民の6人に1人が貧困層、3人に1人が貧困層または貧困層予備軍に該当するという厳しい調査結果が表しています。

 アメリカのGDPと企業収益が金融危機の時期を除いて順調に拡大基調を続けてきたのとは対照的に、国内で貧困層および貧困層予備軍が増え続けて格差が史上最悪の水準にまで拡大してしまったというのですから、少なくとも2000年以降で見れば、インフレ目標政策がいかに間違っていたのかということを、私たちはしっかりと認識する必要があるでしょう(「貧困大国アメリカを追いかける日本」2014年1月10日付のコラムを参照)。

普通の人々の生活を苦しめる経済金融政策を改めるとき

 私がいつも疑問に思っているのは、「経済政策や金融政策はいったい誰のために存在するのか」ということです。すべての人々や企業に平等に恩恵をもたらすユートピア的な経済政策や金融政策などは存在しないという現実を、私も承知しているつもりです。

 とはいえ、それにしてもアメリカの大型減税策や日本のアベノミクス、主要国の中央銀行インフレ目標政策などは、富裕層や大企業などごく一部に恩恵を集中させる政策のため、普通に暮らす大多数の人々の立場から見ると、あまりにも希望が持てないものばかりです。経済の本質や歴史について先入観を持たずにしっかりと検証していれば、このような格差を助長する経済政策や金融政策を行うはずがなかったのです。

 私の先の疑問に対する答えはもちろん、普通の暮らしをしている人々のために存在しているということです。マクロ経済学を確立させたJ.Mケインズの師匠でもあった、ケンブリッジ大学アルフレッド・マーシャル教授は学生たちをロンドンの貧民街に連れて行き、そこで暮らす人々の様子を見せながら、「経済学者になるには冷徹な頭脳と温かい心の両方が必要である」と教え諭したといわれています。アメリカの主流派の経済学者たちや、彼らを支持する欧州や日本の経済学者たちには、ぜひともマーシャル教授と同じ志を持ってほしいと思っています。

 そのうえで、なぜアメリカで貧困や格差が深刻化しているのか、なぜトランプ大統領が誕生するまでになったのか、そういった現実をしっかりと直視しながら、普通の人々の生活を苦しめる経済金融政策を改めなければならないという考えに行き着いてほしいのです。